鎌倉もののふ風土記-鎌倉と庚申信仰
鎌倉には数多くの庚申塔が残っています。
鎌倉では、源実朝が庚申の行事を行ったことが建保元年(1213年)3月19日條として『吾妻鏡』にみられ、その後も何回か記録されています。将軍藤原頼経も行ったことが伝えられています。
庶民の信仰としての庚申待や庚申塔造立がされるようになったのは、室町時代中ごろからといわれています。
「年に六度の庚申を知らずして二世の大願は成就せぬ」と『庚申待祭祀縁起』に記されており、庚申待をしなければ倖せにはなれないという戒めがあります。人々は倖せを信じて庚申待をつづけていました。
庚申塔とは
庚申塔は中国より伝来した道教に由来する庚申信仰に基づいて建てられた石塔のことです。庚申講を3年18回続けた記念に建立されることが多く、塚の上に石塔を建てることから庚申塚ともいわれ、塔の建立に際して供養を伴ったことから庚申供養塔とも呼ばれています。正式には庚申待供養塔とされています。
庚申塔の建立が広く行われるようになるのは、江戸時代初期(寛永期以降)ころからです。以降、近世を通して多数の庚申塔が建てられました。
庚申講(庚申待ち)とは、人間の体内にいるという三尸(さんし)虫という虫が、寝ている間に天帝にその人間の悪事を報告しに行くのを防ぐため、庚申の日に夜通し眠らないで天帝や猿田彦や青面金剛を祀り、勤行をしたり宴会をしたりする風習です。
三尸(さんし)という虫は宿主が早く死ぬのを待ち望んでいます。旧暦で60日に1回巡ってくる庚申(かのえさる)の日に三尸虫は宿主の体内を抜け出すことができ、天に昇って天帝に宿主の日頃の行状を報告する役目も負っていて、その報告によっては宿主は寿命を短くされるそうです。抜け出していた三尸虫は翌朝に宿主が目を覚ます前には体内に戻っています。
あることないこと告げ口されて寿命が縮まってしまうことを恐れた人たちは「寝なければ三尸は体内から出られない」と、庚申の日になる前日から集団で徹夜し宴会などをしました。
夜通し起きていて三尸(さんし)が体内から抜け出さないようにすることを庚申待(守庚申)といい、このとき一緒に庚申待をしてすごす人たちの集まりを庚申講(講=信仰集団)といいます。
この集会を3年18回つづけた記念に建立したのが庚申塔(正式には庚申待ち供養塔)です。
日本ではすでに10世紀ごろには盛んだったようで、『枕草子』『大鏡』などに記述があります。この教えが広まっていくなかで仏教や庶民の信仰が加わり、江戸時代には全国の農村などで大流行しました。
庚申の日は、十干十二支によって60日に1回巡ってきます。
2013年 巳 | 2014年 午 | 2015年 未 | |||
初庚申 | 2月23日 | 初庚申 | 2月18日 | 初庚申 | 2月13日 |
二庚申 | 4月24日 | 二庚申 | 4月19日 | 二庚申 | 4月14日 |
三庚申 | 6月23日 | 三庚申 | 6月18日 | 三庚申 | 6月13日 |
四庚申 | 8月22日 | 四庚申 | 8月17日 | 四庚申 | 8月12日 |
五庚申 | 10月21日 | 五庚申 | 10月16日 | 五庚申 | 10月11日 |
納庚申 | 12月20日 | 納庚申 | 12月15日 | 納庚申 | 12月10日 |
西暦と皇紀では、60の倍数の年が庚申の年となるので、近年では1980年、次は2040年です。
庚申は、十干の庚(かのえ)と十二支の申(さる)の組みあわせで暦の上では60日に1度回ってくる日のことで、その夜を眠らずにすごして健康長寿を願うのが庚申信仰です。庚申信仰は平安時代には宮中などにおいて宮廷貴族のあいだで「庚申の御遊び」があり、鎌倉時代には武家たちも「守庚申」を行ってきました。貴族や武士たちのあいだで平安・鎌倉時代に行われた「守庚申」では本尊の礼拝や宗教的儀礼はなったので庚申塔を造立することはありませんでした。
庚申塔が造立されるようになったのは室町時代になってからで、庚申信仰が守庚申から庚申待に変わってからです。つまり貴族や武士の階級から庶民のものになり、僧侶や修験者が加わり庚申縁起ができ、庚申に礼拝本尊が考え出され、仏教的な庚申信仰に変化したものです。この庚申縁起には3年18回の庚申待ちを行ったところで「道のほとりに塚を築き、四方正面の卒塔婆をたて、供物を整え、往来の旅人にいたるまで是を施す」ように説かれていますのでこれを供養塔すなわち庚申供養塔とみることができることになります。
庚申塔は大抵は集落の外れに、道祖神など他の石神や石碑と一緒に置かれている例が多く、「塞の神」として村の辻の守り神といった道祖神と同じ役割も担ってきました。
三尸虫とは
三尸(さんし)とは、道教に由来するとされる人間の体内にいる虫です。三虫(さんちゅう)ともいいます。
上尸・中尸・下尸の三種類で、上尸の虫は道士の姿、中尸の虫は獣の姿、下尸の虫は牛の頭に人の足の姿をしています。
大きさはどれも2寸(およそ6cm)で、人間が生まれ落ちるときから体内にいて、人間の行動を監視しています。
60日に1度の庚申の日に宿主が眠ると三尸虫が体から抜け出し、天帝にその人間の罪悪を告げ、その人間の命を縮めるとされています。
唐代の中国の書『太上除三尸九虫保生経』にある三尸の画 | ||
上尸(じょうし) | 中尸(ちゅうし) | 下尸(げし) |
人間の頭に住みつき、目を悪くしたりシワをつくる | 人間のお腹に住みつき、五臓六腑を悪くさせる | 人間の下半身に住みつき、精力を減退させる |
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